A Restoration of Machiya: Andrew Nahmias
イシャさんが町家の調査を始めて間もない頃、あるアメリカ人研究生が改修する町家にお伺いした。場所の確認をしておらず、笹屋町通という名前だけを頼りに自転車をこぎ始める。千本今出川を少し下がって西側二本目、笹屋町通のちょうど中央付近に佇む二件の立派な町家。改修中と聞いていたので、こんな立派な門構えのはずは無いと思いながら、通り過ぎようとしたとき、ふと目に入った真新しい檜の表札「ナミアス」…ここだ。
アンドリュー・ナミアス(Andrew Nahmias)さんはアメリカのコーネル大学で建築を学んだ後、研究生として京都大学を訪問。現在は「A New Machiya」という彼の卒業論文のタイトルにある通り、新しい町家の形を、自主改修を通して紙の上ではなく原寸大で描き出そうとしている。また、あるがままの世界を実現するデザイン工房「Cycle Co.」のメンバーとして木製眼鏡の設計なども担当する。
日本人感というのは、形ではなくその振る舞いに表れるもののようで、少し肩を竦めながら「どうぞどうぞ」と流暢な日本語で迎え入れてくれたアンドリューさんは、とても日本人だった。木くずが所々に小さな山を作り、加工しかけの木材、工具と大型工作機械が、いつでも使えるよう効率良く置かれている土間。その光景には、数日前の作業の余韻が未だ微かに残っていて、改修中の建物特有の臨場感があって、訪れた人をわくわくさせる。「頭上注意の事」と書かれた戸をくぐると、グレイがかった朝の光が差し込む吹き抜けの土間、そこには配管が剥き出しのステンレス製の調理場、棚には緑の茶器と彼が描いたのであろう通りの正面図が置かれている。中を案内していただきながら、改修の物語をいくつか聞かせてもらった。イシャさんは、異なる国から来た彼が、どのように地域コミュニティに参加し、その一員になっていくのかに興味があったらしい。質問の最中にインターフォンが鳴る。大家さんがいらっしゃって「アンドリューさん借りて良い?」と。大家さんが彼の肩に手を添えて話す姿は、まるで孫と会話しているようで、こっちの顔が自然と笑顔になってしまった。
町家の自主改修では大家さんとの関係が最も大切になる。お金のこと、近所付き合いのこと、厳しい話も多いが、大変な改修の工程も一番近くで見てくれている。そうして努力を認めてくれる大家さんがいることで、外から突然やってきた彼はその地域の人になる。自主改修というのは建物だけでなく、人との関係を築くことでもあると教えてもらった気がした。
Cycle co. http://cycle-co.jp/